シャロウベイ・ホテル
ランチというには、ちょつと遅い時間だったせいか、ホテル本館のレストランには断られた。が、ここからまた、引き返すのか、と思うと、正気が保てそうにない。
軽食が頼めるバーか何かないのか尋ねる。マネージャーは少し考えて「ここから、ちょっと先に、別館があるので、そこで、お茶の用意をさせましょう」と、ありがたいお言葉をくださる。
きゅるんきゅるんと鳴くお腹をなだめながら、再び車に戻る。
が「ちょっと」に 10 分もかかるとは、なんたることだ。途中、全然違う別荘に乱入してしまい、驚いて出てきた住人に道を教わり、なんとか到着。
ゆるい勾配だったせいか、まるで気がついてなかったが、出た処は小高い丘になっていて、突然開けた景色に呆然とする。
車の音を聞きつけて、マダムが出迎えに出てくれた。
さっきの豪華なマナーハウスとは違い、コテージ風。
もとは銀行だった建物で、実はここに泊まりたかったので、この偶然は、とても嬉しかった。
やや殺風景な外観とは打って変わり、中はとっても素敵。
私たちのお茶が用意されていたのは、ピンクを主体とする、可愛らしいラウンジで、思わず「来て良かったぁん」と手を取り合って踊る。
窓からは、絵のように美しい湖と山。なんて贅沢なんでしょう!出てきたものが、また美味しい。
うるうる状態で平らげる。景色を眺めながら、しばらく惚けたように椅子に沈み込んでいたのだが、対岸の山を、豆ツブが登ってく。ん? あ、車だったのね。そういえば、レンタカーのお姉さんも、山がどうとか言ってたな、とやおら地図を出す。
これから山越えが待っているのか、と思うと、とたんに不安になる二人。ルートは二つ。遠回りだが幹線でケズウィックを経由する A 道路のグリーンに塗られた Primary route コースと、同じ A 道路でも、ピンクの Main road で湖畔を行くコースがある。
マダムがお茶のお代わりを持ってきてくれたので、どっちのルートのほうが良いか相談すると、どっちも似たようなものらしい。それより、こっちの部屋を見ない?と誘われて、ダイニングルームへ移動。
朝食にだけ使うのだそうだが、古い屋根組みがとても素敵な部屋だ。写真などで必ず紹介される、名所のような部屋なので、気をきかせてくれたのか。ここはトイレも素敵で、やっぱり一度はここに泊まってみたいなぁと思った。
ルートは、どうせなら湖畔を行こう、とピンクの道に決定。
山越え
ホテルの先は行止まりなので、湖の分岐点まで戻り、アルスウォーター湖の対岸を進む。
あちこちにキャンプ場があり、釣りをしている人も多い。
アルスウォーターの湖面を行きかうヨットのせいか、時間の流れが急に、ゆったりしてきたような錯覚を覚える。
ワーズワースが「水仙」の詩の着想を得たとされる辺りを抜け、銀山の跡らしき谷間を通り、石造りの、ほんっとにちいさな村を過ぎると、風景ががらりと変わり、石垣が特徴的な山道になる。
やっぱり羊用なんだろうか?この石垣は山頂付近まであるのが、なんとなく不思議。こういう時ツアーだと、すかさず説明が入るのだが、それがないのは残念だな
我々が選んだルートの山越えは、ホテルから見えていた道より急勾配で、極端に細い箇所も多く、景色はともかく、片側が絶壁だったりしてあせる。
あとで知ったが、Kirkstone:カァクストン峠は、車道としては湖水地方で一番高い処だったらしい。
レンタカーのお姉さんが教えてくれた、と思しき右折ポイントに到達したのだが、細い道が吸い込まれるように谷底の村に向かっている。沈思黙考の末、遠回りでも広いほうを選択し、進む。
ゆるやかな下りを終えると、賑やかな道にぶち当たった。交通量の多いフツウの道になると、なんだかつまらなくなって、今までの危なっかしい感じの道が懐かしいのだから、勝手なものである。
賑やかなウィンダミアを抜け、アンブルサイドに到着。ナニを勘違いしたのか、ここがグラスミアだと思って、ホテルを探しだす私。
さっきの賑やかな街をアンブルサイドだと誤認したためのミス。目印として名前の挙がっていたホテルが、ここにも在り、それがイケナかったのだ。ぐるぐる何度もソレらしい処を廻るが、当然ながら、無い。
ホテルは村の中心にあるはずだから、駐車場に停めて徒歩で探そう、と駐車場に入ったその時、看板が、ここがアンブルサイドだと教えてくれた。やれ助かった、と駐車場を一周し、再び道にでて、先を急ぐ。
ワーズワースホテル
いかにも風情のある石の橋を渡り、村に入る。と、迷う暇もなくホテルに着いた。
その名も ワーズワース。タッチの差で有名なジンジャーブレッドの店は終了。残念だったが、仕方ない。
ダヴ・コテージや、ワーズワースの眠るセント・オズワルド教会など、ゆかりの場所もすでに閉館。夕食までの 2 時間ほどを、ただ散歩して廻る。教会横の可愛らしいピンクの館には子供の為の庭があり、妖精が飛んでいそうな雰囲気に、歳を忘れてはしゃぐ。
ここでも時節柄ハリーポッター朗読会のお知らせがあった。告知板もなかなか凝っていて、楽しい。
公園でブランコに乗ったり、空家の貸し別荘をそとから品定めしたり、と名所巡りは出来なかったが、結構楽しかった。
湖水地方は、料理自慢の宿が多いということだったが、さほど期待はしておらず、夕食付きパックだったので、ホテルで食べたにすぎなかった。
が、でてきた突き出しがいきなり非常な美味で、「げげげっ」と驚く。
前菜にコノートで食べたのと同じ名前の品があったので、試したら、全く別物ながら、とっても美味しく、これにもびっくり。
そもそも湖水地方は土日連泊が基本のようで、土曜日に一泊だけ、なんて無粋な客は受け付けてくれない。ここは偶然予約が取れたから来たまでで、名前からして胡散臭~い感じがし、ほんとに全然期待していなかったのだ。
それだけに衝撃が強く、お皿を前に黙り込む二人組なのであった。
メイン? メインも美味しかったが、デザートの盛り付けが、またキュート。相棒はチーズを頼んだのだが、その折にお薦めを相談したら、給仕長がメモを片手にやって来て、「英語が判るんですね?」なんだ?と思うと、「Welcome」を日本語で言え、というのである。
他にもあれやこれやと、なんとかソレらしい発音になるまでメモっては書き直す。こんなところで日本語教室を開くハメになろうとは思わなかったが、真剣な態度は嬉しいものだった。
相棒に「そのうち厨房の全員が入れ替わり、立ち代り、私達を見に来るよ」と予言してみる。
「え~っ? なぜに?」「知らない。けど、英語でちょっとフクザツな会話とか、料理のこと聞くと、前もそうだったもん」果たして、テーブルが違うはずなのに、来るわ来るわ、シェフまで見に来るのである。
たま~にこの目に遭うのだが、なぜなんだろう。英語を喋る日本人なら、ツアコン始め、いっぱいいると思うのに、不思議である。それにしても、ここの人は、日本人から喋ってこないんなら、自分達が日本語で話しかけよう、と考えてくれたわけで、その心意気が嬉しいじゃありませんか。
日本人が多いのかと聞くと、ごくタマ~に団体が来るとの事。その時日本人とアメリカ人のカップルが登場。おおっ! いるじゃん日本人! だがこのカップルは日本語を、なぜかアメリカ人が喋り、それに日本人が英語で答えておった。面白~い
サッヨナラ~巨人の大合唱
出立時、荷物を相棒と交互に運び、私が先にフロントでチェックアウトし、バトンタッチの手はずだったが、待てど暮らせど、彼女が来ない。まさか迷ってるはずもなし、何かあったのか? と不安になりだした頃、なんだか上気した顔でお出まし。
「ど~したの?」と質すと、調理場の掃除をしていたスタッフに、日本語の大合唱で見送られてきたんだとか… おおおっ早速成果が。掃除中の彼らに、「昨日は美味しかったよ、有難う」と声を掛けると、なにやら集まってわぁわぁ騒いだ後、一斉に「サッヨナッラー」と大合唱してくれたんだそうな。
巨人に囲まれて、合唱されて、照れちゃった、と言っていた。
くぅー、見たかった、聞きたかったぞ! なんで呼んでくれんのじゃ! 残念至極だわい。
ホゥクスヘッドでまた迷う
今日はウェールズまで移動するのだが、その前にピーターラビットの地も少しなでていこう、とホゥクスヘッドに向かう。
ここへ向かう道も、背の高い草に覆われ、細い。
通常は間違うこともなくたどり着くんだろうが、村の手前で迷う。
この時分にはもう迷い慣れてきて、とりあえず標識が出てくるまで走ることにした。丘の中腹まで行って、確認し、ユーターン。
眼下にウインダミア湖が見渡せる素敵な場所だ。思わぬところで美しい風景が堪能出来るので、英国では迷子も儲けもの。
目指す村の目星もついたので、とっとこ降りる。
ポターギャラリーへ向かうのに、ここでまたしてもアレレ?な場所から進入してしまい、まずは村を一周してしまう。やれやれ。正しい観光客になるのは存外難しい。
ポターギャラリーで、旅行者用ナショナルトラストのパスを出す。
発祥の地で使い初めるのも何かの縁か。
2003 年から短期の会員パスが出来たので、ネットで申し込み、待つこと一週間。
旅行者用ナショナルトラスト・パスと地図が届く。まだ出来たての新しいパスなので、どこでも「使ってくれてるのね~」と歓迎され、なかなかに気分がいい。
ギャラリーには原画がずらっと展示され、感動的。好きなだけ眺めていられるのは、個人の旅のいいところ。幸福な気分でギャラリーを出たのは 1 時間くらい後だったろうか…
ピーターラビットのお土産が、当然ながらあちこちにある。買う気はあまりなかったのだが、やっぱりここまで来たんだし、とつい、見て廻る。
購入量はともかく、時間を使いすぎ、絵本の舞台となったヒルトップへ行くのは諦め、ウエールズへの途につく。ヒルトップを経由してフェリーで対岸へ渡る方法もあったのだが、迷子の不安が拭えず、堅実に地道をアンブルサイドまで戻り、高速道路をめざす。
高速には、カフェにガソリンスタンドだけの小さなステーションから、大掛かりなパーキングを控え、コンビニやゲームセンター・宿泊施設まである大きなステーションまで、いろんなタイプの休憩所があり、探検がてらに休憩ホッピング。
小さい処など、傍まで羊がきて草を食んでいる。のどかなものである。
大きな処では日本のアニメゲームを発見。「湾岸ミッドナイト」日本の高速をこっちのようなスピードで走れると思ったら甘いぜ、などと言いながら、男の子の肩越しに見学。
色んなパーキングエリアにちょこちょこ立ち寄りながら、ひたすら先を急ぐ。
処変われば品変わる。この時ではなかったが、どちらの方向からも出入り出来るステーションがあり、一度など、すんでのとこで元来たほうへ走行しかけ、冷や汗をかいた。
逆戻りしかけた時はガソリンスタンドの敷地内で気づき、なんとか事なきを得たが、アブナイところだった。
初めての渋滞も体験し、なんとかウエールズに入ったのは 5 時頃。
高速の出口までは難なくクリア出来たのだが、ホテルの近くで、又迷う。駅があり、地図の通りなら、こうで、こうで、ここに… 無い。
「なぜっ、なぜないのっ!」写真から推測するに、山手だよね、とソレらしい山道に入るが、一向にそれらしい建物に行き当たらない。丁度遊んでた少年達を捉まえて、聞いてみる。
英語が苦手なほうが知っていたようで、もう一人の男の子が、ウエールズ語から英語に通訳して教えてくれた。目的地の近所で迷うのが、今回のお約束かと、ため息を吐きながら、坂を行く。