ファンタジー

ベトウス・ア・コーエド:Betws-y-Coed

ウェールズ最初の目的地は「Betws-y-Coed:ベトウス・ア・コーエド」 スノードニアの山歩きの基地として古くから栄えた要所である。昨日堪能したボドナントガーデンの裏を抜け、渓谷を南下してゆく、途中「ランウスト:Llanrwst」で、どえらい渋滞に巻き込まれ、こんな田舎でなぜ? と車を降りて見に行くと、 駅があり、遮断機が降りている。その上観光バスがすれ違えず、頭をひねっているのであった。ランウスト:Llanrwstではクラクションひとつ鳴らず、どの車もの~んびり待っている。 実情を報告しに車に戻ると、丁度ゆるゆる動き始めたところだったが、ヤバイから、とパーキングに退避。一息つくことにした。 停まっていた時にみつけたデリで昼食を仕入れることにして、全くしらない街「ランウスト:Llanrwst」ちょっと散策。 細い路から街中をのぞくと、どうも観光地のようだ。なにが目玉なの? と聞くと、石橋だった。 ウェールズでは橋と城が観光名所のようである。ともあれ、我々の目的は食物。相棒はご飯、に見える料理と、カレーに見える料理を購入。コケた場合の保険に、サンドイッチを 2 種にパイを 2 種。 ここは高級らしく、おいてある品揃えが渋い。ということは、味も良さそうだ。ハムなどは当然自家製である。 渋滞は相変らずで、ど=なってんだ~と、言いながら、本来の道に戻るべく、あてずっぽうに村のなかを走る。と、広い道に出た。しばらく進むと、間違いなく A470 道路。後を振り返ると、相変らず牛歩みたいにやっている。 中心のほんの僅かの区間だけが慢性渋滞のようで、我々は知らずに、ちゃっかり迂回出来たらしい。ついでにカメラを構える人の先を見ると、そこには名所の石橋があり、ふむふむ、ここが名所の橋か、と見ておいた。 めざした「Betws-y-Coed」は丁度分岐点だったからで、特に何か期待があったわけではないが、トイレをさがして駅をのぞくと、これが可愛く、陸橋が、まるでホグワーツの駅のようだった。 思わぬ拾い物にホクホクし、公園のベンチでランチに取り掛かる。ゴハンにみえたモノはサラダで、ぼそべちゃっ、とした奇ッ怪な代物だった。 一口もらって、「こんなゴハンでも食べたい?」と聞くと、相棒は哀しそ~な顔ながら、こくこくさせる。が、さすがに主食にはキケンだったのか、ゴハンを口にして少しは癒されたのか、1/3 くらいで中止し、サンドイッチに変更。 ここの具はやはり、美味しく、ゴハンの欠落を埋めて余りあったようで、「ううっ美味っ」と涙ぐみながら噛り付く。 カレーに見えたものは、カレー風ムサカで、茄子のお惣菜だったが、これはこれで美味。ジャケットポテトのパイも当然、美味で、晴天の下、森林浴をしながらの昼食に大満足。 せっかくだから、と名物の滝を見ようと上流まで足を伸ばす。ところが、どこでナニがどうなったのか、気がつけば、はぐれていて愕然とする。まさか積み残して出発されはしないだろう、と思うものの、どっと不安が広がる。 必ず車には戻るはずなので、あちこち動いて探すよりは安全、と車に向かう。どうもこの辺が、ウェールズの魔力の効きはじめだったようだ

ランゴレン:Llangollen

さて、もちろん車で再会を果たした我々は、蒸気機関車で有名な「ランゴレン:Llangollen」を目安に、イングランドへと舵を取る。 丁度時間が合ったのか、途中何度かその列車を見かけた。 道路は山の中腹、線路は山裾の平野を川沿いに走っていたので、見下ろす格好になり、まるで映画でもみているかのよう。ドライバーが「私も見たい~!」というので、車をとめられそうな処に停まったが、残念ながら林が邪魔で、見えたのは煙ばかり。 駅肩を落としながら、村に到着。結構賑やかな観光地で、なんとなく京都の嵐山に似た雰囲気だ。 駅には、さっきのと思しき列車がみえる。ここでも橋は名所で、川にかかる普通の石橋と、村からは離れるが、「天かける舟橋」と二つある。 船橋というくらいだから船が通るのだが、馬にぱっかぱっかと曳かれた船が、陸橋の上をゆっくり滑る様は、なかなかに風流だ。 船着場は丘の中腹にあり、それもなんだか不思議な感じ。ここは 国際音楽祭 でも有名で、そのせいか、土産物がどこより多く、個性的な店もまた多かった。 この辺でウェールズからイングランドに入り、次は「シュルーズベリー:Shrewsbury」を目標に幹線道路を行くのだが、さっき買った CD を聴きながらドライブするうち、段々頭痛が始まり、眼も痛くなる。 足も、なぜか指だけが急に痛んだり、かと思うと膝が、ひじが…と痛みがぐるぐる身体を移動して、気分が悪いというか、ヘン。 試しに CD を止めると、急に痛みの移動が止んだ。大きな町のことで標示が常にあったのでナビは不要だったが、さすがに尋常でない様子に相棒も気遣わしげ。が、車を停めるより、むしろここから早く遠のきたかったので、ドンドン進んでもらうよう頼む。 「シュルーズベリー:Shrewsbury」には入らず、外環状を通り南下し、次に目指したのは「Ludlow」

ルドロゥ:Ludlow

ハーフチェンバーの家並みが美しい、というので、途中の休憩箇所として、考えていた村だ。 ルドロゥに着いた頃にはもう痛みなどほとんど無かったが、相棒は気にしてくれて、彼女が村を偵察する間、私は車でぼぉお~っとしていた。 ここは丘の頂上にあり、見晴らしが良い。 夏祭り があるらしく、 朽ちたお城 を中心に、そこここに華やいだ雰囲気が充満している。演者にはクリストファー・リーの名もあった。 ヘンリー八世の兄、アーサー王子と、スペインのキャサリン王女は結婚後まもなく「プリンス & プリンセス・オブ・ウェールズ」としてこの城に居を構えたが、悪性の流感に倒れた皇太子は、半年を待たずに帰天。 大国スペインとの縁を逃したくない英国側の意向で、キャサリン王女は次男のヘンリーと婚約、結婚することになる。 この辺の事情が、後にヘンリー八世の離婚の理由として使われるので、歴史的には意外と重要な場所。 王子達の父、ヘンリー七世はウェールズ出身で薔薇戦争を終結させ、チュダー朝の祖となった王様だ。そもそもこの城はウィリアム征服王の時代に、対ウェールズの要塞として建てられたというから、かなりな要所に在るのだろう。 カーナーヴォン:Caernarfon は戴冠式で有名だが、 ルドロゥ:Ludlow も「プリンス・オブ・ウェールズ」にゆかりの地だとは、今回初めて知った。この小さな村がイングランドの王位継承者の住処であったとはねぇ、偶然とはいえ、中々に興味深かった。 エリザベス女王の姉、ブラッディメアリーことメアリー女王も、一時「プリンセス・オブ・ウェールズ」として、8 年ほどをここで過ごしている。 パパがヘンリー八世だったせいで、この姉妹は王位継承権を授けられたり、剥奪されたりと振り回され続け、散々な目にあっているんだよね。エリザベス女王の英国といえば、繁栄に次ぐ繁栄で、輝かしいイメージしか持っていなかったのだが、映画「エリザベス」を観て、初めて即位までの事情を知り、興味を持つようになっていたので、この村への訪問は、偶然ながら、なかなかに良い思い出になった。

国境を迷う

ルドロゥ:Ludlow からさらに南下し レオミンスター:Leominster で左折。ウースター:Worcester から イブシャム:Evesham を経て宿のある ストウ・オン・ザ・ウォルド:Stow-on-the-Wold まで、あとは特に立ち寄るつもりもなく、休み休み行く予定だったが、なぜだか、レオミンスター:Leominster から、なかなか出られず、途方にくれる。 まず街中をなんども徘徊する。この道だよね、と進むと、急に行き先の表示が変わったりして、果たして正しい方へ進んでいるのかわからず、困る。 やっとこ幹線にたどり着くも、最初の道は違う道だったので、バックして村に戻ると、また巡回してしまう。次に選んだ別の道がまた違うようで…。 小一時間をこの、ほんの小さな村の周辺で、ぐるぐるぐるぐる。マジ呪われてる? と思ったくらい。魔女のツメで襟首を捕まれでもしたような雰囲気だった。ウースター:Worcester の看板を見た時は、緊張が解けて、どっと疲れた。 Worcester はウースターと読む。ウースターソースの発祥地にして、ロイヤルウースター窯の地。時間に余裕があればロイヤルウースターの博物館とか、街も見たかったが、最早そんな余裕はなく、街を迂回して、必死に宿を目指す。 お茶も、休憩すら取る気分ではなく、追われてでもいるように、ひたすら走る。走るったら走る。 途中ぐぅぅん、と坂をのぼり、コッツウォルズって丘の上なんだ~と実感。「あ~、ブロードウェイタワーだぁ~」見慣れた風景に、やっと、ほっとする。 もう安心だぁ~と、気を緩めたいのに、なぜかホテルが出てこない。またかよ~。しかもこの辺はニンゲンが歩いていない。 さぁて困った。車はびゅんびゅん飛ばしてるし、なかなか停まってじっくり確認できるような場所がない。ここでもホテルがあるはずの場所をぐるぐる廻る。 この一角じゃないのかも、と先に進むと、果たして似た名前の看板がある。道がえらく細いのが気になったものの、湖水地方のことがあり、入ってみた。ら、どんどん狭くなり、ついには先が無くなりそうだったので、かろうじて切り返せる場所で、車をターンさせ、戻った。 さて、入り口ではオジサンが仁王立ち。こちらをにらんで「ドコへ行く気だった?」ホテルだと思って、と言うと「ここが、ホテルじゃないくらい判るだろう」とエライ剣幕で怒鳴られた。 しおしおと道に戻り、坂をぐったり上ろう…とアクセルを踏みかけたら、出ました、看板が!ホテルを見つけて安堵するより、どどどっ、と疲れが音をたてて頭から降ってきそうな感じだった。 ヨッタヨッタと車を停めてると、なぜか、ち~ちゃい熊のぬいぐるみをブラブラさせた紳士がやって来て、ソレを振って「ハ~イ」と言いながら、彼方へと消えていった。 変なオヤジである。 チェックインし、キーを受け取ると、果たしてそこには先ほど目にした熊ちゃんが付いていた。 あの熊は、趣味じゃなくて、キーだったのね。 いろんなホテルがあるものである。ここの駐車場が、私のイメージにある「ナルニア物語」の「街燈あと野」にぴったりだったので、ちょっと印象的だった。 ファンタジー映画の流行にのり、「ナルニア」も映画化が進行中のようだが、ニンゲンより動物が多いこの話。観たいような、観たくないような、フクザツな心境である。