キフツゲイト・コート:Kiftsgate Gourt
グロスター大聖堂でハリーワールドを堪能したので、満ちたりた気分で、コッツウォルズの庭園へ向かう。
「キフツゲイト・コート」は開園日が難しく、前回涙を呑んだので、日程には注意した。ここへも到着寸前に右往左往したのだが、偶然園内で会った日本の方とも、「迷いませんでした?」とひとしきり盛り上る。
お互い、庭を無視して往きすぎ、ヒドコットから戻って来ていて、大笑い。結構大きな字で書いてあったのに、なぜかその時は見落としたんですよね~と、笑い合う。
この庭のサイト は、非常に詳しいので、下見? はしていたのだが、やはり実物は全く別。サイトの感じでは、ここまで気に入るとは、正直思っていなかった。
女性がメイン設計者だったこともあるのだろうが、やはり女性的な感じがする。ここに比べると、私のお気に入りである「ロウシャム」は男性的で、ゴツゴツと厳つい感じに映る。庭にある彫刻や建物の存在が、そう感じさせるのか、「ロウシャム」は空間がシャープに刈り込まれた感がある。
対してここ「キフツゲイト・コート」の草花は、剪定されず伸びやかで、堅苦しさがない。東屋もあるし、噴水や池が確かにアクセントになっているのに、難なく風景に溶け込んでいる。
有名ではあるが、個人の庭を開放しているので、チケット売り場もバザーのような手作り感満載のチケット売り場。オジサンは、立ち話をしたり、苗木の選定を手伝ったり、と忙しい。
私達の時も石で重しした、チケットを残し、行方不明。悩んでいると、ゴメンゴメン、と手袋をはずしながらどこからか登場。「あ!日本からでしょ、今日は君達で 3 組目だよ、嬉しいなぁ」とチケットをくれる。「お茶はもう終わってるんだ、ごめんね」と言いながら、木戸を開けてくれた。
入ってすぐ目に飛び込むのは、薔薇また薔薇。あふれるほどの薔薇である。しかも薫り高い!これぞ夢にまで見た英国の薔薇!
二人とも、ほとんど口もきかず、くんくんと犬のように薫りを嗅ぎながら、食入るように見て廻る。詳しいことはわからないが、友人の庭のように、くつろいだ感じというのか、今まで見てきた庭園とは、随分と雰囲気が違う。
いみじくも、前をゆく老夫婦が「ウチより狭いのに、なんて素敵」と言っていたが、言われてみれば、規模が小さい。それでも見て廻るのに 1 時間半は必要なのだから恐れ入る。
崖が巧く使われ、イブシャム:EVESHAM 渓谷が、広々と横たわる様は素晴らしい。同じこの景観が、はす向かいの「Hidcote Manor Garden」では、額縁の中の風景のように、エレガントな門で縁取られている。
どちらも丘の上の立地が生かされた、見事な借景。手品のように、様々な庭が繰り出されるヒドコットとは違い、こちらは全体が同じ調子でまとまっている。その辺が、いい意味でシロウトっぽく、家庭的で暖かな感じを生んでいるのかもしれない。
Garden visit.com というサイトでは、キフツゲイトの評価が、デザイン性が星一つ、植物的の希少性が星二つ、景観が星三つだったが、私も同感。
「ヒドコット」はデザインが 3、植物が 2、景観が 2 で、やはりデザインが評価されている。 ロウシャム もデザインが 3、景観が 2 だと載っていたが、こちらは 18 世紀の庭で、名造園家の作なので、歴史的な意味でも、デザインへの評価は当然といえば当然。
「ヒドコット」「キフツゲイト・コート」は、金持ちが造園家に依頼した作品ではなく、自らの手で造り上げた、市民の庭、というのが凄い。特に「ヒドコット」は、ナショナル・トラストが庭を管理するきっかけを創った、記念碑的な庭。
ひとわたり庭を堪能し、薔薇の洪水をなんども満喫しながら別れを告げる。
外では薫り高い薔薇の苗木が売られており、相棒は真剣に購入を迷っている。最終的には諦めたのだが、せめても、とデジカメをだし、名残惜しそうに、一種類づつ香りをかぎながら、写真に収める姿がいじらしい。
本当に残念!プリンセス・ダイアナはなかったが、プリンス・チャールズはあった。紫紅色で薫り高く、アーチ仕立てにも出来るんだそうだ。
寿司御前 談「秘密の花園」が好きな人なら、物語そのままよ。
6 月の、バラの時期に行ってみて下さい
ストーンサークル・Rollright Stones:ロールライト・ストーンズ
茅葺き屋根の民家キフツゲイトは 6 時閉園だが、隣のヒドコットは 7 時まで。
ちょっとしか見られないが、どんな感じか、サワリだけでも、と向かったのだが、着いてみると休園で、ショック。
どおりでキフツゲイトが満員のはずだ。仕方ないので、チッピングカムデンを抜け、コッツウォルズ一、保存の良い茅葺き屋根の民家を見、丘の上にあるらしいストーンサークル「Rollright Stones:ロールライト・ストーンズ」に向かう。
ここは、相棒が英会話の先生に教わったストーンサークル。地図も付けてくれたのだが、それが間違っていて、着いたところは端正な村。
諦めて帰ろうとした刹那、美人が犬をつれ、食後の散歩に出てきた。メモと地図を持ってにじり寄り、教えてもらう。
近所だったので、ほっとする。どんな処か尋ねると、今頃の時刻は特に「ファンタスティック」とのお言葉。ほぉぉ~と、期待がふくらむ。
この辺と思しき場所に車が何台も停めてあり、確信を持って下車。あるある、大きな石がで~ん、と野ッ原にそびえ立っている。
草丈が高いので、苦労しながら石までいくが、これ一個でサークルとはこれ如何に? おまけにその石の背後で、コーラスしてる。
ん~ん、ナニかの宗教儀式だろうか? 特別な日で、歌を奉納してるとか?劇の看板その一群が消えると、また新手が現れて、歌うのだ。
う~んう~ん、と悩みながら車に戻り、どこが「ファンタスティック」なのか、釈然としないまま走りかけると、看板が!
ほんのちょっと先に、簡素な門があり、そこが目指してきたサークルの場所らしかった。
ただ、今日は劇が上演されていて、ステージが組まれ、肝心の石まで行くのはちょっと難しく、外から眺めただけ。
「Rollright Stones:ロールライト・ストーンズ」は丘のきわにあるので、神話の世界にいるような感じだったのではないだろうか。
あのコーラスの謎が解けたのは良かったが、その景色を見逃したのは残念。
ここからは舞台裏が見え、別の意味で面白かった。さっきのコーラスのオジサンが、にま~っとして、手をヒラヒラさせてくれる。こちらもヒラヒラのお返しをして、出発。
以前行った、Avebury では、ストーンサークルの中に村があり、目の端で洗濯物がはためくし、車は通るし、神秘的な風情とは程遠く、ぞっとするような雰囲気は、まるで無かったのだが、ここにはソレがある。
特に一個だけぽつん、とある石の周りには、人を不安にさせるようなナニカ、が渦巻いていた。
大好きな、コッツウォルズのゆるやかな景観が、ここからは荒涼とした風景に見えるのだ。びゅ=びゅ=と、絶え間なく吹く風は、「ここは、お前達が来るところではない」と追い立てる精霊の息吹のようだ。
トールキンの生地はこの辺だということだが、ここは異世界に近いのかもしれない。
ストウ・オン・ザ・ウォルドの中華は美味し
夕食を求め、ストウ・オン・ザ・ウォルド:Stow-on-the-Woldの街に向かう。8 時になるとどこも満杯で、30 分待ち。30 分をつぶすつもりで、ウィンドウを覗いてまわることにした。
ここは骨董で有名な村だし、それも良かろう、と歩き出したとたん、中華のテイクアウトの店を発見。
「ごっごはんがあるぅ~~っっっ!」相棒は、すでにメニューに吸い込まれそうな感じで、見入っている。
春巻き、子羊のぱりぱり焼き、焼飯、カレーを購入。ホテルまでの 5 分がもどかしいくらい良い匂い。うう…美味そうじゃ。
部屋に入るなり欠食児童のように目を爛々とさせながら一口。
お互い、にんまぁ~、としながら食べ進む。
久々の中華だから、とか、ごはんだから、という域を超え、本当に美味しい。
特に子羊は、今まで食べた中でも、トップクラスの味。
これだけを食べに、また来たい、というくらいの美味だった。
翌朝、相棒はカレーの残りを健気にも冷たいまま食べようとする!のを阻止し、洗面器にお湯を張り、温めさせる。
自分は食べないのに、この熱意。相棒は、感心を通り越し、呆れている。
暖める手立てがあるのに、冷え冷えじゃ、カレーだって悔しかろう。きちんと湯煎を実行しているのをチェックし、わたし自身はホテルの食堂へ向かう。
実はコッツウォルズのこのホテル、最初の夕食で、相棒がダウンしたのである。
とにかく量が凄かった。味は普通だったのだが、いかんせん今回は他が良すぎて、不味く感じたこともあり、2 日目以降は中止。朝食ももちろん大味。
今回はやっとありつけたまともなご飯があるのに、お付き合いで来てくれるはずもなく、一人ぼっちでの朝食とあいなりました。
2 日目の夜はバイブリーで、ピクニック。3 日目がこの中華。世の中どこに何が転がっているか、判らんもんです。
Wyck Hill House Hotel:ウィック・ヒル・ハウス・ホテル
今回まさか、の備えに、ホテルの部屋キャンセルが可能なホテルに絞ったら、あっと言う間に淘汰された。悩まずに済んで便利だったのか、不便だったのか…
英国の旅行保険はキャンセル時のカバーが出来るらしく、どこもとりあえずの予約を「お勧め」して下さるのだが、日本の旅行保険ではもちろん無理。なので危ない橋は渡れない。
観光地では、そこそこの規模のホテルでも「全額前納、返却なし」が結構多く、キャンセル条項はよ~~っく読まないとだめですよ!
コッツウォルズで宿泊した「Wyck Hill House Hotel:ウィック・ヒル・ハウス・ホテル」は、当時 Wren's Hotels というグループに属していた。レンといえば、セントポール大聖堂、クライストチャーチのトムタワー など多くの有名な建造物を造った 17 世紀の建築家。
「Sir Christopher Wren:サー・クリストファー・レン」が建築した建物に泊まれるんだワ、と勘違い。結構盛り上がったのだが、実はウインザーの、「Sir Christopher Wren's House:サー・クリストファー・レンズハウス だけがレンの建築だったようで、拍子抜け。
コッツウォルズは他にも選択肢があったので悩んだが、行きたいところのど真ん中という場所が丁度良かったこともあり、決定。
部屋からはウインドラッシュ丘陵が見渡せ、気持ちが好い。レンの手ではなくても、流石は荘園主の館である。苦しゅうないぞ。
部屋も景色も、とても気に入ったのだが、ここの窓が面白い。
カーテンの代わりに、雨戸のような板が付いていて、夜ともなれば、こうして閉められてしまう。
この手のよろい戸、小さい窓では見たことがあるが、こんなに大きな窓にも使われていたとはねぇ。
扉を閉められた状態の部屋を見た時は、戻る部屋を間違えたかと思った。
なにも、つっかい棒で留めなくてもさ… 悪さして、閉じ込められたみたいじゃありませんか。そう思って棒をはずすと、クセがついているせいか、昼間の全開状態まで、パタパタッと開いてしまうのであった( 一一)
開けたままでもいいじゃん、いいじゃん夜だしさ、と開けたら、夜の庭を散歩中のご夫婦と、ばっちり目が合い、すごすごと閉める。
明かりをつけた室内は、ライトアップされた舞台のごとく丸見え状態なので、こちらも気になるが、庭にいるひとも、落ち着かない気分になるよね~。
まぁね、かがり火が焚かれ、ロマンチックだわさ、ここの庭は。
上の窓の鎧戸は、自分達で開けたのだが、これがまた一苦労。結局開けたのはこの日だけ。朝も、カーテンがないのだから、着替える時にはコレを閉めるしかなく、笑える。
さすがに朝から閉めきって、ごそごそするのもね、と着替えは 4 畳ほどもある浴室ですることにしたが、思わぬトコロで、珍しい体験をしてしまったのであった。5
「Wyck Hill House Hotel:ウィック・ヒル・ハウス・ホテル」ホテルには、18 世紀の著名な室内装飾家であり建築家「Robert Adam:ロバート・アダム」の名を冠した広間があった。「Robert Adam:ロバート・アダム」本人の手によるものか、単にアダム調だからかは、判らなかったが「Robert Adam:ロバート・アダム」ゆかりの館には、今回行くことが出来なかったので、ちょっと嬉しかった。
アダム様式の様式は独特で、写真のように、ウエッジウッドのジャスパーウエアで天井や壁を飾ったような感じ。
「Wyck Hill House Hotel:ウィック・ヒル・ハウス・ホテル」の「アダムルーム」の壁はクリーム色だったが、多くはパステルのきれいなグリーンやピンク、ブルーの地色であることが多く、その枠のなかに、白で模様を搾り出したような作風。
「Robert Adam:ロバート・アダム」以降、英国の室内に、エレガントで女性的な要素が加わったのではないかと思う。椅子も、ここはアダム様式で揃えてあった。
以前なにかの展示会で、内装をアダム、暖炉や壺などはウエッジウッド、という部屋の再現を見た記憶があるのだが、共同で制作にあたった事があったかどうかは不明。
アダム様式は、新古典主義とかネオクラシズムとか呼ばれ、ロココの華美な姿の反動で、ローマやギリシャの端正な姿を範としている。というのが通説。
今とは端正の感覚が違うなぁ~、と思うが模様部分の厚みが、確かに薄い。
この時代は家具にも有名な作家が多く、中国趣味のチッペンデール。背もたれが特徴的な椅子で知られる、ヘップルホワイト。直線的なラインのシェラトンなど。ちょっとクラッシックな内装のトコロには、今でも彼らの子孫が多く使われている。
ここに仔細は載せられないが、どれも見覚えのあるデザインだと思う。英国のホテルなどでは、よくジョージアン様式の装飾で…云々というが、彼らの時代がそう。お隣ではフランス革命があり、日本では江戸の中期。
街そのものが、このジョージアン様式で統一されているのが、温泉で有名なバースの街。バースヘは旅の最後に行く予定なので、前奏曲みたいな感じがした。